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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)10960号 判決 1974年4月02日

原告

平井和代

被告

木俣和三

ほか一名

主文

被告らは連帯して原告に対し、金九六万四、〇七五円及びこれに対する昭和四四年七月四日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告)

一  被告らは連帯して原告に対し、金二四〇万六、三八六円及びこれに対する昭和四四年七月四日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

三  仮執行宣言。

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

(請求の原因)

一  事故の発生

(一) 事故

原告は昭和四四年七月四日午後五時五〇分頃、別紙本件事故現場付近の図面のとおり、東京都板橋区舟渡町一―七の変形十字路を舟渡三丁目方面より新河岸川方面に向けて自転車(以下原告自転車という。)を運転して直進中、おりから中仙道方面より浮間方面に向けて進行してきた被告市川運転の原動機付自転車(板橋い五二―六一、以下被告車という。)に衝突され、頭部外傷の傷害を負つた。

(二) 治療経過

1 志村外科病院 44・7・4~44・7・19入院16日

44・7・20~45・1・21通院実日数29日

2 東京武蔵野病院 44・8・25~44・9・8通院実日数4日

3 直居診療所 44・8・4、9・9、10・13、12・16の通院実日数4日

4 代々木病院 45・12・22、46・1・20通院実日数2日

5 小豆沢病院 45・1・31~47・6・29通院実日数186日

6 東大付属病院 46・7・7~7・21 通院実日数4日

7 足立区医師会診療所 46・7・9 検査1日

(三) 後遺症

自賠法施行令別表に定める九級一四号相当の後遺症が残つた。

二  責任原因

(一) 被告市川は、時速五〇キロメートルの高速度で、前方注視義務を怠つて右原付自転車を進行させた過失により、直前になつて原告の自転車を発見するも衝突を回避することができず、本件事故を発生させたものであり、民法七〇九条により損害賠償の義務を負う。

(二) 被告木俣は右原付自転車の所有者であつて、自己のために運行の用に供している者であるから、自賠法三条により損害賠償義務を負うものである。また被告木俣は、肩書地で、そば屋「松月庵」を営むものであり、被告市川はその従業員であるが、本件事故はそばの出前途中に発生したものであつて、被告木俣は民法七一五条によつても損害賠償義務を負うものである。

三  損害

(一) 治療費(付添看護料含む) 四二万四、一九六円

前記第一項(二)1ないし7の治療費合計である。

(二) 破損メガネ代 一万五、八〇〇円

(三) 通院交通費 二万三、九四〇円

(四) 雑費 四万八、七四一円

(五) 休業損害 七六万四、四〇〇円

原告は事故当時二八才の主婦であるが合計一、〇九二日間、家事に従事することができず、一日七〇〇円として、七六万四、四〇〇円の損害を蒙つた。

(六) 逸失利益 一七八万一、〇七七円

前記後遺症の程度によると、原告は三五年間(ホフマン係数一九・九一七)、労働能力の三五パーセントを喪失したものであるから、一日七〇〇円として算出すると、原告の逸失利益の損害は一七八万一、〇七七円となる。

(七) 慰藉料 一一八万円

傷害によると慰藉料四〇万、後遺症慰藉料七八万円

(八) 損害の填補

原告は被告らから(一)ないし(四)の合計五一万二、六七七円、休業補償費四三万九、〇〇〇円、自賠責保険から後遺症補償費七八万円(旧々九級)、総計一七三万一、六七七円の填補を受けた。

(九) 結び

よつて原告は被告らに対し連帯して(一)ないし(七)の合計額から(八)を控除した範囲内で二四〇万六、三八六円及び事故日の昭和四四年七月四日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(答弁)

一  請求の原因一の(一)(三)の事実及び同(二)の1ないし4と7の事実は認める。同(二)の5のうち45・1・31から46・6・5までの通院実日数九四日の部分及び同(二)の6の通院の始期が46・7・7であることは認めるが、その余の部分は不知。

二  請求の原因二の(一)(二)の事実中、過失の態様に関する事実は争う、その余の事実は認める。

三  請求の原因三の(一)ないし(四)及び(八)の事実は認める。(五)ないし(七)は争う。

(過失相殺の抗弁)

被告市川は、別紙図面(ホ)付近において同(ニ)付近に原告の自転車を最初に発見したものであつて、原告においても左右の安全確認を確実に履行していたならば、本件事故を防ぎ得たものである。よつて原告には左右の安全を確認することなく道路を横断した過失があるので、過失相殺を主張する。

(過失相殺の抗弁に対する原告の答弁)

右主張を争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  (事故の発生、責任の有無、程度)

(一)  請求の原因一の(一)(三)の事実、及び同(二)の事実中1ないし4と7の事実、並びに同5、6の事実中、原告が昭和四五年一月三一日から昭和四六年六月五日まで小豆沢病院に通院(実日数九四日)したこと、昭和四六年七月七日から東大付属病院に通院し始めたこと、は当事者間に争いがない。そして、〔証拠略〕によると、原告は昭和四五年一月三一日から昭和四八年二月二八日まで小豆沢病院に通院(実日数二〇九日)治療し、昭和四六年七月七日以降東大付属病院に、数回にわたり通院治療している事実が認められ、これに反する証拠はない。

(二)  請求の原因二の(二)の事実中、被告木俣が被告車の運行供用者であることは当事者間に争いがない。してみると被告木俣は自賠法三条に基づき原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。

(三)  そこで事故態様について判断する。前判示争いのない事実に、〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。本件事故現場の現況及び事故当時の状況の一部は別紙図面のとおりである。事故当時は、右図面に溝川と道路との境界の痕跡として表示している部分と建物との中間は幅約三・四メートル内外の溝川になつており、溝川の上には鉄板が敷いてあつた。右建物で工場等を営んでいる居住者らは右鉄板の部分を自動車の駐車場として利用していた。事故当時は、右鉄板上に、後部を道路の方向に向けて自動車が駐車してあつた他、右溝川に接する道路上にも、右溝川と平行に自動車が一列に数台駐車してあつたため、被告車進路からの原告自転車進路への見通しも、逆に原告自転車進路からの被告車進路への見通しをも妨げていた。原告は自転車に乗つて、道路左寄りを、舟渡三丁目方向から新河岸川方向へ向けて本件交差点にさしかかり、徐行しながら徐々に進行し、溝川の上あたりで交差道路の左側の安全を確認し、次いで交差道路の右側を見たところ、前記駐車車両のために見通しがきかなかつたため、さらに前方進入して安全を確認しようと思い同一の速度のまま、徐々に溝川と道路の接する部分から前方に約一・五メートル前後進入したところ、中仙道方向から浮間方向へ向けて被告車が接近しているのを発見したが、回避措置をとる暇もなく、自車の前部と被告車の前部とを衝突させるに至つた。被告は、被告車を運転し、中仙道方向から浮間方向へ向け本件交差点にさしかかり、交差道路の舟渡二丁目方向から原告自転車が本件交差点に進入するのを発見したが停つてくれるであろうと考え、徐行しないで、同一速度のまま進行し、原告車と衝突するに至つた。以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、被告市川には見通しの悪い交差点での徐行義務を怠つた過失が認められるので、民法七〇九条に基づき、右事故により、原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。しかし原告にも、広路の交差道路の右方の安全を充分に確認しないまま本件交差点に進入した不注意が認められるので、両車両の車種をも勘案し、賠償額の算定に当り二割程度過失相殺するのが相当である。尚過失相殺につき原被告らは種々主張するが、右認定判断を左右するに足りる事実を認定するに足りる証拠はない。

二  損害

(一)  原告が治療費、破損メガネ代、通院交通費、雑費として合計五一万二、六七七円の損害を蒙つたことは当事者間に争いがない。

(二)  得べかりし利益の喪失

原告本人尋問の結果及び前判示傷害の部位・程度、後遺症の程度に照すと、原告は事故当時二四才の家庭の主婦で一日七〇〇円として事故当日から三年間労働能力の一〇〇パーセント(中間利息控除なし)、その後一〇年間(ライプニツツ係数七・七二一七)労働能力の三五パーセントを喪失したものと評価するのが相当である。してみると原告の得べかりし利益の喪失による損害は合計一四五万七、〇一三円となる。

(三)  慰藉料

原告の前判示傷害の部位・程度、治療経過、後遺症の程度、その他本件口頭弁論に顕われた諸般の事情に照すと、慰藉料としては一四〇万円が相当である。

(四)  よつて右(一)(二)(三)の合計額三三六万九、六九〇円が原告の損害となるところ、前記原告の不注意を斟酌し、被告は二六九万五、七五二円の賠償をすべきところ、原告は一七三万一、六七七円の填補を受けていることは当事者間に争いがないので、これを控除すると九六万四、〇七五円となる。

三  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、金九六万四、〇七五円及びこれに対する事故の日である昭和四四年七月四日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとする。

よつて訴訟費用の負担につき、民訴法九二条、仮執行宣言につき、同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮良允通)

別紙図面

<省略>

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